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もののけ姫に学ぶ、ツイッター社会の処世術

 私は映画をほとんど見ない。「ただ見ているだけ」の状況が落ち着かなくて、とくに映画館は得意ではない。画面の前で2時間、じっとしていられないのだ。家でDVDとか見るならまだいいが、いやーでもじっと見ているくらいならゲームするわっちゅう感じで、結局家で見ることもほとんどない。とはいえ映画自体が嫌いなわけではないので、誘われたら行くこともあるし、一緒に家で映画を見てくれる彼女は欲しいし、べつに映画とか関係なく普通に彼女は欲しい

 

 もとよりそんな趣味ではあるのだが、ジブリ映画は好きだ。ゲド戦記だけはちょっと本気でつまらなかった(見たいから連れてってと妹に言われて連れて行ったら感想がなんで連れてきたのだった)が、他はだいたい楽しく見ている。そして、友人と「ジブリ作品どれが好き」みたいなお茶の間トークを繰り広げる際、私の答えは決まってもののけ姫だ。理由を聞かれたときにもその回答は決まっている。「登場人物全員にそれぞれの正義があるから」。

 

 敵キャラやライバルキャラがその人なりの「正義」を持っているストーリーはいい。エボシ様しかり、DIOしかり、李牧しかり、セフィロスしかり・・・敵側の正義が理に適ったものであればあるほど、物語はいっきに奥深さを増す。その意味で、バトルもののストーリーの面白みは「敵側の正義をいかに練り上げるか」というところに収斂されるといっても過言ではないと思う。

 

 現実世界でも、我々はそれぞれの正義を持っており、それは一概にどちらが正しいと決めつけることはできないことが多い。もちろん道徳的・倫理的に、もしくは法的に、明らかな正義と悪を決めることができる場面もあるが、全体から見るとレアケースである。電車内での化粧の是非だったり、会社の飲み会の是非だったり・・・我々はその都度、正義が対立(または並立)する場に直面している

 

 


 話は変わるが、現代の最重要コミュニケーションツールのひとつ、Twitterを皆さんはご存じだろうか(ちなみにこのブログのアクセス元は99%がツイッターなのでこの問いは何の意味もない)。ツイッターは非常に便利なツールである・・・と同時に、炎上や個人情報の特定などのリスクをはらむ危険なツールでもある。炎上のメカニズムについてはまあそのテの記事が腐るほどあるし、この記事を読むような方はもう十分にネットリテラシーに明るいと思うので詳しくは書かないでいいだろう。

 

 今日、ツイッターをはじめとするSNSのありかたに関して、パノプティコン的」という形容をされることがしばしばある。「パノプティコン」とは、もとは刑務所の構造を指す言葉で、「全囚人が一元的に監視されるシステム」のことを指す。下図がいちおうその説明図らしい。

 

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 図のように、中央に管制塔のようなものがあり、全独房が一元的に見渡せるようになっている。 

 

 ツイッターに看守はいない。しかし、お互いがお互いを監視するシステムだと言うことはできるはずだ。この点でツイッターパノプティコン的である。お互いに監視をし合い、非常識な言動があった際に、晒し、炎上させ、特定することで粛正する。そんな場面を、我々は何度も目にしている。サイバー世界を通じて広がる、看守不在の刑務所に、あなたも、私も、監視されながら身を置いているのだ。


 ここで思い出すのは先ほどの話だ。ツイッターはお互いがお互いを監視するシステムなのだから、「これが正義だよね」という合意がないと、犯罪者を糾弾することはできない。しかし、前提となる「正義」は、個人個人でバラバラなのだ。

 

 だから多くの場合、何が正義かは「多数決」によって決められることになる。法的にアウトな行動はもちろん粛正の対象となるが、それ以外にも、非常識な行為、独断的な批判、身勝手な主義主張など、ターゲットになる行為は枚挙に暇がない。これらの行為の是非を決定するための判断基準は一定ではなく、「監視しているツイッタラーたちの多数派意見」がそのまま正義となるのだ。(「おでんツンツンするのは非常識でしょ。みんなそう言ってる」とか、「この発言は中国に対するヘイトスピーチだよ。みんなもそう思うよな」とかそういうやつだ)

 

 このように、「正義」がほぼ「多数決」によって決まってしまう世界において、粛正対象とならずに過ごしていくことはかなり難しい。発言しなければいいという「沈黙は金」の考え方もあるにはあるが、本来的なツイッターの構造上なかなかそうもいかないのが現実だ。つぶやきたいことあるし。

 

 


 そこでここからは、「正義」と対立しないための身の振り方というものを考えていこうと思う。その舞台として、冒頭でも挙げたもののけ姫」を採用したい現代社会と同様、「正義」の乱立する情勢の中、我々は誰をロールモデルとしてSNSを利用していくべきか。登場人物1人ずつ、もしもツイッターの利用者だったらという想定のもと、例を挙げながら考えていこう。

 

ケース①:エボシ様
 主義主張がはっきりしているので、アンチがつきやすい。フェミニストということで、そのあたりに関しての炎上も見込まれるだろう。目的も「神殺し」からの「森の征服」なので、たとえ人の生活を守ろうとしての行動であっても、現代なら自然保護団体とか、動物愛護団体とかが黙ってないはずだ。どうでもいいけど動物愛護団体っていう言葉、なんかふざけた感じの文脈以外で見ないんですけど本当に存在してるんですかね?

〈炎上するツイート例〉
エボシ御前@onna_saikyou
 人の生活を守るためには多少の自然破壊は仕方がないのに、わかってないヤツが多い。これだから男はバカなんだよな

〈想定されるリプライ〉

・知識不足とジェンダーは関係ない。完全に論理のすり替え。

・こういうクソ女がいるから女性全体の株が下がる

これだから女はバカなんだよな
 

ケース②:サン
 かわいい、優勝!!! ・・・とはならないのが辛いところ。人でありながら人に抵抗するという境遇は同情を買うかもしれないが、主張が危険すぎるし、いかんせん考えが若すぎる。差別の対象になりそうなのも相まって、大人達に袋叩きにされそう。あと最近流行りのキモいリプ選手権会場にされそう

〈炎上するツイート例〉
サン@ningen_kirai
 森破壊しに来るヤツらまじウゼェ。次来たら殺すからな。

〈想定されるリプライ〉

・相手にも生活があるのに、譲歩する姿勢はないんですか?あと後半は普通に犯罪予告です。通報しときましたんで。

・嬢ちゃんはおうちに帰ってママ犬のおっぱいでも吸っとけw

素直に射精です


ケース③:アシタカ
 彼は誠実でまじめ、森と人間の共生のために身を賭して行動する好青年だ。主義主張同士の融和を図ろうとする点で、バランスを重視するように見える。しかし、この行動はツイッター上では危険である。対立する思想の間に入って仲を取り持とうとするのは、はっきりいってウザい。

〈炎上するツイート例〉
アシタカ@yakkuru_kawaii
 @ningen_kirai @onna_saikyou サン、エボシ殿、言い争いはやめて共に生きる道を探そう。私にもできることがあれば手伝わせてくれ。
〈想定されるリプライ〉

・急に出てきてなにこいつ。お前一人いるくらいで解決できたら誰も困ってねーよ。

・森を守るとか言うならまずあなたのペットを自然に返してあげたらどうですか?

こいつ絶対サンとパコりたいだけだろw


 このように、世知辛い現代社会では、本来主人公格のキャラクターでさえも叩かれる対象となってしまう。彼らのような身の振り方は、ツイッターのようなSNS上では危険な行為となってしまうのだ。

 

 では、「もののけ姫」で最も処世術に長けた人物は誰か?

 

 

 それは、ジコ坊だ。

 


 ・・・・・・誰ですか?とお思いの諸兄もいることだろう。画像を貼っておく。

 

 

 

 

 

 

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 こいつだ。違う。間違えました。(余談だが、コウメ太夫ツイッターは面白いリプライがつくことで話題になっている。それはいいとして、いくらなんでもさすがに本人のつぶやきがつまらなすぎると思うのは私だけだろうか?)

 

 

 

 

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 こいつだ。彼は、いわゆる「敵か味方かわからない」タイプのキャラクターだ。この「敵か味方かわからない」という点が重要。どの勢力にも肩入れせず、ひたすら漁夫の利だけを狙って立ち回る。口数は多くとも余計なことは言わず、情報をもとに私腹を肥やすため暗躍する。恐らくツイッター上でも本心は言わず、やんわりと他人を揶揄だけするような感じなのではないか。人心掌握に長けていそうでもある。

〈予想されるツイート〉

ジコ坊@baka_niha_katen

 例の兄ちゃんたち、ずいぶんと騒ぎになっとるね。思っとることは同じで、戦えねえ民が安心して暮らせるような社会が理想なんだろうに、話し合いでなんとかしようと思わんかねえ

 

 おそらく大したリプライは来ず、500RTくらいされながら、空リプで多くの賛同の意見とちょっとの批判が挙がるくらいだろう。いわば理想的なツイートではないだろうか。誰を敵に回すでもなく、しかし本質は捉えてますよアピールも欠かさない。その社会の上層でも下層でもない中間層の人間を味方につけとけばだいたいなんとかなるということもわかる。

 

 

 

 ジコ坊の処世術は、ツイッター上でこそその真価を発揮する、かなり現代向けのものであることがわかった。彼の立ち回りは、我々がツイッターを利用する上での、ひとつのモデルとなるだろう。これを見習って、安全にSNSを利用していきたいものだ。

 

 

 

 ・・・しかし改めて思う。

 

 パノプティコン的電脳社会は、もののけ姫の世界よりよほど複雑だ。

 

 敵を作らず、細心の注意を払って発言せねば

 

 「多数派」という獣の、理不尽な暴力によって粛正されてしまう。

 

 

 

 もしかしたら

 

 

 

 本当の「もののけ」は

 

 

 

 我々人間のほうなのかもしれない・・・  タァァァァンッ!!(エンターキーを叩く音)