硬直1000F

3日でやめます

煩雑化するレジでの会話は、まるで映画である。

 

 

 日頃からコンビニを利用する機会が多い。帰宅が夜半ということもあり、その時間に開いている店となればほぼ一択と言えるほど利便性がいい。当たり前のように24時間営業をしているが、その実これはとんでもないことでもある。ストレスにまみれた現代の魔都に燦然と輝く不夜城。我々はその存在なくしては生活がままならないほどである。

 

 しかし、最近のコンビニには問題がひとつある。レジ袋の有料化や支払い方法の多様化などにより、レジにおけるコミュニケーションが煩雑化していることだ。これは我々コミュ障の陰キャ自分でコミュ障の陰キャって言うやつ、ただ単にコミュニケーションを面倒がっているだけ説)にとって、かなり手痛いナーフである。コンビニの利点のひとつがその手軽さであり、コミュニケーションを行わなくていい、というのもその手軽さのいち要素だったわけで、これが崩れると一蓮托生、コンビニの持つアドバンテージが一気に瓦解しかねない危うさがあるのではないか。

 

 

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 読者の方も、直近のコンビニでのやりとりを思い出してほしい。それはまるで、映画のワンシーンにできるほど煩雑で、冗長である。たとえば今、私が今日巻き込まれたレジ前の会話を思い出せうる限りでここに記述したい。私の脳内で煩雑さのバイアスがかかっていることもあり、実際のやり取りにやや脚色がなされている可能性もあるが、それがリアルであるともいえる。これこそがいま起こっているコンビニの危機だ。

 

 

 

 

 

 

店員(演:エディ・マーフィー「……じゃ、これが商品と、こっちがレシートだ。あんた、そろそろタバコは控えたほうがいいんじゃないか?これじゃウチだけじゃなく隣のドラッグストアでも常連になっちまうぜ。じゃあな、よい一日を。

 次に並んでるお客さん!……おっと、あんたじゃねえ、そっちの列のお客さんのが先に並んでた。いいか、ゆっくり下がって、1歩……2歩……そうだ、そこで待っててくれ。心配すんな、あんたが朝食前のコンドルみてえな目で狙ってるラスト1個のファミチキだが、ちょうど今揚げてるとこだ。もう少し待ってくれれば、新鮮なジャッカルがちょうどあんたの前を通りかかることになるぜ。……よーし、わかってくれたならそれでいい。じゃ、そっちのお客さん!今からあんたの番だ。その手に持ってるカゴをここに置きな。」

 

私(演:ジェイソン・ステイサム「……ずいぶん賑わってるな。ブロードウェイに来ちまったのかと思ったよ。」

 

店員「ハハーッ、そりゃいいな。キャストは俺一人、演目はレジカウンター・パフォーマンスだ。おっと、チップは胸ポケットに直接入れてくれよ、そっちの募金箱に入れられても俺にはビタ一文入らねえからな。」

 

私「いいや結構。あいにくミュージカルには興味がなくてね。」

 

店員「おいおい、まさかオペラ座の怪人を見たことないなんて言わないよな?なんなら今ここで俺がやってやろうか?大丈夫、心配するな。セリフは一言一句間違わねえよ、もう200回は見たからな。舞台は19世紀のパリ。オペラ座の地下に住むある男が……」

 

私「なんでもいいから早くレジを打ってくれ。火だるまになってシャンデリアの下敷きになりたくなければな。」

 

店員「なんだよ、見たことあるんじゃねえか。ハイハイ、そんじゃカゴをちょっくら拝借。先に聞いとくが、温めるもんはあるか?うちのレンジはすげえぜ。1500W、業務用の特注だ。アンタがカゴに入れてるこのチキンステーキを、サンフランシスコのビーチに停まってるキャデラックのボンネットくらい熱々にできるんだぜ?」

 

私「ああ、そいつはゴキゲンなこったな。また今度たのむよ。」

 

店員「いいのか?こんな機会めったにないぜ?業務用レンジなんてめったにお目にかかれないぞ?200mおきに建ってる、他のコンビニに行かない限りな。」

 

私「わかったから早く仕事をしろ。後ろの客が心待ちにしてるファミチキが揚がっちまうぞ。」

 

店員「つれねえ客だなまったく。んじゃ1個2個……あー、この弁当はやめといたほうがいい。やたら底を上げててたまったもんじゃない。おっ、このスナックはウマいぜ。あんたいいところに目をつけたな。おいそういやあんた、レジ袋は要るか?」

 

私「ああ、頼む。」

 

店員「なんだって?おいおい、今どきエコバッグも持ってねえのかよ!SDGsを知らねえのか?おいあんた、名前はなんていうんだ?あとで国連とグリーンピースからこっぴどく叱ってもらわねえとな。」

 

私「好きにしてくれ。今さら誰に叱られようと、うちのカミさんより恐いとは到底思えないだろうからな。」

 

店員「ハハッ、そいつは気の毒だな。そんじゃ次はエコバッグを持ってきてくれよ。さもないと、あんたの奥さんが国連に加盟することになるぜ。持続可能な地球を、あんたの手から守るためにな。」

 

私「ああ、そいつは最高だな。ところで俺はいつまでレジを待てばいいんだ?今までの客は、お前さんのレジ作業の間にロード・オブ・ザ・リングでも観てたのか?」

 

店員「おっ、そいつは名案だな!あー、だが、著作権が面倒だな。じゃあ全部の役を俺がやってそいつを流すのはどうだ?実はミュージカルより映画のほうが好きなんだ。スメアゴル・イズ・フリー!って具合でな。あ、そうだそうだ。」

 

私「次は何だ?」

 

店員「スプーンだ。レジ袋は譲れても、こいつは譲れねえ。なんてったってタダだからな。タダだからって10本もセットにするわけにはいかねえから、こいつが何本いるかはあんたの良心にかかってるぜ。客にタダでスプーンを配りまくってこの店がつぶれちまうかどうかも全部あんた次第ってわけだ。さあ何本だ?何本いるんだ?」

 

私「あんまり脅すなよ。大丈夫だ。スプーンはいらない。」

 

店員「ワァ~オ、後ろに並んでるやつら聞いたか?あんたみたいなお客ばっかりなら、この店もネバーランド(マイケルジャクソンの家)みたいなデカさになるのにな。よし、そんじゃ支払いはどうする?現金、カード、プリペイド……なんでも揃ってるぜ。」

 

私「電子マネーでたのむよ。」

 

店員「おいおい旦那、電子マネーだけじゃわからねえよ。『好きな生き物は何?』って聞かれて、『動物』って答えるヤツがいるか?もっと詳しく言ってくれなきゃ。たとえば、俺の好きな生き物はバッファローだ。勇猛でパワーがある、まるで俺みたいだろ?」

 

私「ああ、まったくだな。ちなみに俺の好きな動物はペンギンだ。ここまで言えば解るだろ?」

 

店員「あーはいはい。Suicaだな。そんじゃ、ここにカードを近づけて読み込ませてくれ。あんたのハニーとキスするときみたいに優しくな。……よしOKだ。」

 

私「どうも。それじゃあな。」

 

店員「おっと!どこへ行くってんだ。お客さん、あんた大事なことを忘れてるぜ。」

 

私「なんだ?早く言え。それとも、帰りが遅くなった言い訳を俺の代わりにカミさんにしてくれるってのか?」

 

店員「ハー!ブルルルルル……(唇を震わせながら、両手の親指を下に向けるポーズ) 大事なことってなあコイツだ。レシートだよ。」

 

私「いや、いらないな。あいにくポケットに入りきらなくてね。」

 

店員「おいおいそりゃないぜ。おれの立場をわかってねえのか?おれはこの店の店長なんだぜ?しかも雇われのな。安い給料で、昼勤も夜勤もやって、バイトのシフトまで調整してんだ。このエリアのボスには頭が上がらねえ。受け取ってくれねえと頭の固え支配人どもに大目玉くらっちまうんだ。なあほら、頼むよ。」

 

私「わかった、わかったよ。ほら、これで満足か?(レシートをぐしゃぐしゃに丸めて財布に投げ込みながら)」

 

店員「ああ、そうだ。それでいい。そんじゃあな、いい日になるよう祈ってるぜ。あ、そのレシート、今やってるイベントの応募券がついてるから送ってみるといいぜ。あんたが1000人に1人の選ばれし男かどうか試せるからな。

 よーし次のお客さん、そうあんただ。待たせちまってすまなかったな。……え?ファミチキ?あ~、え~っとあれならさっき揚げてて……(揚げすぎて焦げたファミチキを見ながら)まあその……ウェルダンってところだな。他じゃ食べられないぜ?」

 

 

 

 

 これである。こんなことを毎回やっていたら身が持たないし、その他の日常会話までウィットに富みまくってしまう。パソコンがうまく動いた程度で「よ~しいい子だ」なんてことを言う日常生活はゴメンである。

 

 

 

 コンビニ各社はそろそろ、レジでのコミュニケーションを見直してほしいし、エディマーフィーみたいな店員を再教育してほしい。あと私はジェイソンステイサムみたいなイケおじじゃないし、叱ってくれる奥さんもいない。あ~あ、あぁあぁ最高だよ!!(両手を上に投げ出しながら)

 

 

 

 脚本家ってたいへんな仕事なんですね。それではまた。