硬直1000F

3日でやめます

異世界はRPGツクールとともに。

 日常生活の中で、パニックとはいかないまでも、不安を感じることはさまざまある。将来に対する漠然とした不安もあるし、いつ起こるか分からない大地震や、刈り上げおじさんのミサイル(ぼかそうとしたら意図せずステラおばさんのクッキーみたいになってしまった)など、直接的な不安も多々ある。我々は一見それに気づかないフリをして生きているが、心のどこかで常に不安を抱える生き物だ。

 

 人間がそんな業(カルマ)を持つことを、私は小学生のときに悟った。たまには考察なんかを抜きにして、思い出を語ってみようかと思う。

 

 

 

 

 

 小学校のときの友人に、Kくんという子がいた。Kくんは裏表がなく気のいいヤツだったし、同じ剣道クラブに通い、お互いゲームが好きでもあったので、よく一緒に遊んでいた。

 

 先に言っておくが、私はKくんをめちゃめちゃいいやつだと思っているし、めちゃめちゃ尊敬している。それを意識したうえでここからの文章を読んで欲しいわけだが、Kくんはなんというか、まあはっきり言うと、笑いのセンスがなかった

 

 このようなことを言うと、じゃあお前はどうなんだとかそういう話にもなるし、人が面白いと感じるものは人によって違うんだからそこに基底性はないだろうとかいうことにもなるが、少なくとも私が思うに彼の言動はぜんぜん面白くなかった。というより、笑いのツボがずれていたと言ってもいい。モンスターファームで育てていたモンスターが寿命を迎えたときに「死んだwwwwwwwwwwwww」とかいってめちゃくちゃ笑っていたこともある。(私のイメージでは、あれはグランドセフトオートで車が爆発して死んだときにとるリアクションだ。)私は彼とゲームをしながら、彼が笑うと一緒に笑っていたが、それは同じ場面を見て笑っていたわけではなく、「こいつこんなことで笑ってるんか。やべーな」と思って笑っていた。

 

 

 

 そんなKくんが一度、自作のゲームを持ってきたことがあった。自作といっても当然プログラムしたわけではなく、RPGツクールという、自分でロールプレイングゲームを作れるソフトを使用したものだった。たしか2だったと思う。

 

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 ご存知の方も多いと思うが、この作品は「自分でRPGを作れる」という触れ込みの、男子にとっては夢のようなゲームだ。といっても当時のハードはまだスーファミで、制作のためのインターフェースも非常に使いづらく、玩具の域を超えなかったことは間違いない。とはいえ、私の周りの男子はこぞって自分なりのRPGを制作し、交換して友人にプレイさせたりしていた。

 

 

 

 「やってみてやってみて、めっちゃおもしれーから!」という地獄みたいな前フリの時点ですでにやる気はゼロだったのだが、仕方なくやることにした。まあ素材は既製のものだし、サンプルも入ってるからそこまでつまらなくはならんだろ・・・と思って始めたのだが、まあやはりというか、甘かった。キャラクター設定を無視した語調(普通の女の子が「ここは私の家じゃ」とか言う)、村人が村の1ヵ所にやたら密集している、最初にエンカウントするザコ敵が設定マックスの強さなど、小手先のクソしょうもないボケを連発してくる。これが1人ならいいのだが、プレイを隣で見ながら私のリアクションを観察してくるからキツい。小ボケ以外にも、村人の会話はまったく漢字変換をしていないうえに句読点やスペースが一切ないため、異常なほど読みにくい。また、村人の家を捜索するとおおきなメダルが見つかったり、村の長老の名前がシドだったりと、既視感がすごいのにも参った。

 

 そんなこんなで町で情報収集していると、めちゃくちゃ目立つ看板が立っていて、「いどにいけ」と書いてあった。池の名前か?Kくんはもうキラッキラの目でこちらを見ている。「井戸に行ったら何かがあるかも・・・?」とか言ってる。はいはい、井戸に行けってことね。私はこういうとき村の他の部分を探索しきってから向かうタイプなのだが、彼の目のあまりの輝きっぷりに、あきらめて井戸を目指した。

 

 町外れの井戸からは下に降りられるようになっていた。まあそういうことだろうなと思って降りてみると、進んだ先に何かがいる。ブルーハワイのシロップをそこらじゅう塗りたくったみたいな青い暗闇の中に、ガイコツが1体立っていた。とりあえず話しかけてみると、こんなことを言ってきた。

 


「おもなかまにいれて」

 


「出たwwwwwwwwwwwwやべーwwwwwwwwwwwwwはははははwwwwwwwwwwwwww」Kくんはめちゃくちゃ笑っている。出たってなんだ。お前が出したんだろ

 

 しかしやばいのは確かだ。なぜなら何が面白いのかさっぱりわからないから。いや、厳密にはさっぱりわからないわけではなくて、1点思い当たるところがあるにはあるのだが、こんなしょうもない脱字でこんなに笑うはずがない。じゃあ何だ。このあとの「なんで〇〇なのwww」っていう返しを用意しておかないとKくんの機嫌を損ねてしまう。私は頭をフル回転させてその候補を考えた。

 

 

①なんでこんなところに仲間がいるの
 仲間になる予定のやつが井戸の底にいる意味がわからない。当たり障りなさそうに思えたが、脈絡のなさは今に始まったことではなく、そもそもこのゲームが全体的に説明不足であることを暴いてしまうことにもなるためボツ。

 

②なんでこんなに展開が早いの
 仲間になるためのイベントバトルとかがなくて急すぎるだろ、という点に着目。しかしこれもストーリーの練り不足を指摘することになりそうでボツ。安易な指摘でKくんを怒らせてはいけない。(Kくんは小学生の時点で身長が160くらいあって怒ると手がつけられないから)

 

③なんで1人目の仲間なのに「も」なの
 「も」って言うということは、既に仲間がいる前提があるはずだ。しかしPTはまだ主人公1人である。「も」はおかしい。という切り口はどうだろう。結構いい気がする・・・いや、待てよ。これは結構面白い。こんな面白い視点のボケをKくんが思いつくはずがないのでボツ。

 

④なんで「おれ」じゃなくて「お」なの
 やっぱりさすがにこれはない

 

 

 考えあぐねた私は、とりあえず愛想笑いをしていた。しかしどこが面白いのか今聞かれるとマズい。頼む、聞かないでくれ―――

 

―――神は我に味方した。Kくんは自分から笑いどころの説明をしてくれた。

 

 

 

 


「こいつwwwwwwww骨なのにwwwwwwwww動くんだぜwwwwwww」

 

 

 

 


 えぇ・・・・・

 

 当たり前だろ。いや当たり前ではないんだが、これRPGだしさ。そもそもファンタジーという枠組み自体を理解していないのか?といった感じで私はパニックになってしまった。あと脱字には普通に気づいておらず、指摘したら真顔で直していた。なんなんだ。

 

 

 

 人間が生きている以上、不安は常に後ろをついてくる。Kくんは私に、そんなことを気づかせてくれた、大切な、尊敬すべき友人だ。

 

 

 

 

 

【エピローグ】

 

 大学1年生の夏、帰省中にKくんとばったり再会した。久しぶり!なんていう普通の会話の流れで、軽く近況報告なんかをした。

 

 「俺、高校卒業して警察学校に入ったんだ。最初の英語のテスト、100点中3点だったよw

 

 ああ、変わらないな、と思った。

 

 

 

 Kくんは今もどこかで、市民の安全を守る警察官として働いている。それが私の、目下最大の不安だ。